第9章 きゅう
「馬鹿言ってないで、早く部屋戻って寝な。明日も早いんだから」
「あぁ、わかってる。全く、冷たいぜ」
困ったように笑った加州が、行李の蓋を閉める。
「じゃあ俺、主に報告してから寝るから、先に行くね」
「あぁ、おやすみ」
「うん、おやすみ〜」
俺はソワソワして、寝られる気がしない。
万全にして臨みたい気はあるが。
何度目かわからない、修行前の独特な高揚感。
また味わうことになるとは、本当に驚きだ。
この本丸だからこそ、この本丸の加州と言葉を交わしたからこそ、俺は少しだけ前向きになれたんだ。
「…おい」
「伽羅坊」
「いつまで何をしている」
「少し感傷に浸ってた」
「素直になったのはいいことだがな、アイツらがお前の布団を敷いて待っている。早くしろ」
「え、」
「チッ」
伽羅の腹のあたりで、モゾっと何かが動いている。
正直言ってそっちの方が気になる。
ぐいっと俺を引っ張り上げ、むすっとして引き摺る。
「伽羅坊、既視感があるんだが」
「黙ってろ、舌を噛むぞ」
伊達の札がついた部屋の前でとまり、俺を放り投げる。
受け身をとったので大事はないが。
「だからいつも言ってるだろう、もっと優しく」
もふっと俺の顔に生暖かいものを押し付ける。
「急にはやめてくれ、息が苦しくなる」
「うるさい、貞と火車切が起きたらどうする」
押し付けられた物をそっと外し、見れば、いつもは閉められた広光の部屋の障子がはずされて布団がびっしりと敷かれている。
そして、火車切と貞坊が小さく寝息を立てていた。
「コイツらがどうしてもってうるさいんでな。光忠は、片付けをしてから来るそうだ」
2人の布団を直した伽羅坊が、大きなあくびをして自分の布団へと寝転がる。
…あぁ、なんだ。
酷く、安心している。
「…んっ、…つるさん?」
「貞坊、起こしたか?悪いな」
「んーん…ねようぜ」
「そうだな」
ほらっと、少し布団の端を持ち上げた貞坊。
だから素直に横になった。
…悪夢はもう、見なかった。
ーーー
ー
「鶴さんっ、」
「っ?!」
翌朝、急にきた重みで目が覚めた。
覚えのある奇襲だ。
「…きみ」
「寝坊したね」
「え…あぁ、アイツらもう起きたのか」
「そうだよ」