第9章 きゅう
『それが悪趣味って言ってるの!それならせめて、国永の寝ぼけた顔撮らせてよって言ってるのに。いつも先に起きる』
鶴さんの視線に気づく。
こんな目を向けてもらえる私がいるのかと、少し絶望した。
「仕方ないだろ。じじぃなんだから、俺も」
『国永はじじぃじゃないもん』
「こーら、きみが"じじぃ"なんて言ったら、歌仙が一日寝込むことになるぜ?それに三日月も口癖のように言ってるのに、俺はどうしてダメなんだ?」
『な、…それはっ、その』
愛おしいとその表情に、その視線に現れてる。
「撮ってもいいぜ?」
『え?ほんと??』
端末をむけた私。
「どうだ、よく撮れたか?」
『国永、そういうことじゃない』
「どういうことだよ」
あぁ、嫌だな。
鶴さん、わかっちゃった。
パズルのピースみたいにハマっちゃった。
『まぁでも、いい写真だから待ち受けにしようかな』
「この写真をかい?」
『こんな顔の国永見てたら、なんだか、どんな時でも元気がでそうだから』
そしたら自然に言葉が出てくる。
戸惑いもなく。
前にもあった、似たようなこと。
鶴さんと私の関係を変えたできごと。
もしかしたら、予防線だったのかもしれない。
これ以上、鶴さんを…国永を奪っていかないでっていう、彼女の想いかもしれない。
…だって、知らない記憶が流れ込んでくる。
私の最期、優しい雨の中、鶴さんの腕に抱かれて最後はキスで閉じる。
暗闇でも大丈夫だと思えるくらいの愛をたくさんもらって。
知らないは嘘になるか。
数年前のかくれんぼの日、私は同じ夢を見た。
…これは、私なんだ。
私であって、私じゃない。
思い出してって言ってる。
返してって言ってる。
鶴さんの修行を目前にして。
………あぁ、返さなきゃいけないのかもしれない。
それはいつだろう?
鶴さんが修行から帰ったら?
それとも、この夢から覚めたら?
酷い侵寇。
鶴さんの記憶に残る私、今見えてる私。
ねぇ、どうりで優しかったわけだね。
鶴さん、わかってたんでしょう?
だからいつも鶴さんの優しさは痛かった。
私じゃない私に向いてたから。
どこまで純粋に今までの私を私として見てくれてたの?
見てくれていたことはあったのかな。