第9章 きゅう
また夢を見た。
こんなにクリアに思い出せるのは、初めてかもしれない。
最初は自分の半生をなぞっているのかと思った。
みんながいて、…ただ一つ違うのは私の近侍であり初期刀が、清光ではなく国広になっていたことを除けば。
その時点で夢だと気づいた。
同時にこれまでお世話になりながら、清光に対して少し薄情な気もする。
夢の中の国広は私を起こしながら、今日は例のはいいのか?と聞いてきて、何も思い出せない私なのに体が覚えているようで、朝の支度も早々に部屋をでた。
国広は呆れたように笑っていた。
ここの私も愛されていたんだなと、そんなことを思う。
足が止まったのは伊達の部屋の前。
部屋の仕切りにそう書いてある。
候補は4人。
でも、呼び慣れたように私の口から出たのは、やっぱり他の誰でもなかった。
『国永!』
呼んだ後に、気がついた。
「おはよう、早いな」
『でも、国永の方が早かった』
「きみ、まだ先日のことを根に持っているのかい?」
私はそのことを知らない。
『そうだよ。勝手に寝ぼけた顔撮ったの絶対忘れないから!即消してって主命してるのに!時空装置の端末用の待ち受け、いつまでその寝ぼけた私の顔にしてるの?』
記憶をなぞるように、情報が入り込んでくる。
「仕方ないだろう、消し方がわからない」
『そんな、荒地の魔女みたいなこと言ってないで、私が消してあげるから、今すぐ出して』
「悪い、今手元にない」
私はこれを知っている。
布団を片付け、ぱっと両手を広げて見せた鶴さん。
迷わず飛び込んで行けた私。
心だけが私で、あとは自由が効かない。
そうするのが当たり前みたいに、鶴さんの胸に飛び込む。
意地悪を言われて、攻撃とばかりにぽかぽかと胸の辺りに反撃しても、痛くも痒くもないんだろう。
『長谷部といち兄ぃに言いつける』
「それは勘弁してくれ、きみのためにも」
『私のため?』
「あの2人に言ってみろ、寝起きの顔だろうがなんだろうが、俺よりもきみに熱烈なんだから、あの写真欲しがるぜ?きっと。
それどころか、俺と同じように待ち受けにするだろうな」
『最悪』
「俺は個刃の趣味でそうしているだけだ』