第8章 はち
加州が帰ってきた日は、盛大な宴が開かれた。
騒がしくて、俺は大広間の戸を開けて縁側で雰囲気だけを楽しむ。
外は変わらず静かな夜、虫の音が聞こえてきても良さそうなのに、どんちゃん騒ぎのせいで、今日は聞けなさそうだと少しガッカリする。
「鶴丸」
「ん」
「飲んでる?」
「あぁ。…加州、君いくら俺が好きだからって、主役がこんなところにいたらダメだろう?」
「はぁ?ったく、心配して損した。俺が好きなのは主。思いの外酔ってんのかよ」
「初期刀殿の祝いの宴だからな、それなりにな。酔いを覚ましていたところだ」
「ふうん。…うちの鶴丸は、こう言うの苦手だよな」
「え?」
「気づくとすぐに抜けてる。宴とか、非日常なの好きそうなのに」
「…驚いたな。言われて今初めて気づいた。騒がしいのは嫌いじゃないんだが」
「怖いんでしょ、あの中に入るのが」
極めたせいか、余計観察力が上がったってわけかよ。
戦につかうのは、偵察力だろ。
「その心は?」
「トラウマ的な?わかんないよ、そこまでは。俺は鶴丸じゃないから」
「…確かに、怖いのかもな。だって、宴って楽しいものだろう?俺にはまだ早いかな」
「ま、無理する必要はないよ。俺の宴だしね」
「急に優しいんだな」
「知らなかった?…なんて。鶴丸あのさ、……アンタが今まで見てきた本丸、ここじゃない本丸の加州清光は極めてた?」
打って変わって真剣な目に、俺は記憶を手繰り寄せる。
「……いや、極めていなかった気がする」
「そう。じゃあ、もう大丈夫じゃない?」
「どう言うことだ?」
「俺の三通目、受け取ったのは鶴丸でしょ。そして主に手渡した」
「そうだな」
「同じ未来は辿らない。もう違う分岐点に入ったんだよ」
風が頬を撫でる。
主の霊力に包まれるみたいに、心地いい風だった。
「そう…なのか」
「もしかしたらね。…だから鶴丸、怖がる必要ないんじゃない?だって、強くなりたいでしょ」
心臓が掴まれたみたいだ。
「そしたら、もっとちゃんと主に向き合えるんじゃない?」
「そうだろうか、」
「少なくとも、俺はね。待ってるよ、俺も主も。ちゃんと、鶴丸のことをさ。これからもずっと同じ未来を見る為に、少しでも気持ちが揺らぐなら、行くべきだ」
………あぁ、そうか。
そう言うことか。