第8章 はち
「え?じゃあ何、修行行けないの?」
加州と話して、一度自分を見つめ直す為にも行ってみてもいいのかもしれないと決意したのに、政府からの知らせは出鼻を挫くようだった。
俺に変わって加州が政府へと抗議の電話をしている。
「鶴さん、ごめんね」
「どうして主が謝るんだよ」
「せっかく鶴さんが決意したのに、人間の都合でしょ」
「違うだろ、政府の都合だ」
「…でも」
眉を下げる主。
俺は残念に思う反面、少しだけまだここに居られることに安堵していた。
「全く、ありえないよ!担当も、信用ならない!」
「まぁまぁ、加州」
「そう怒るなよ」
「怒るだろ!何急に、システムの都合とか…俺と安定の時はなんともなかったのに」
「でも、システムの不具合なら仕方ないね。
…その不具合に巻き込まれて、鶴さんに何かあるよりはメンテナンスしっかりしてもらって、安心して行ける方がずっといいもんね」
「それはそうだけど…」
「それに私、清光の極み後の戦闘服もさらにカッコよくなったから、楽しみではあるけど、鶴さんの今の戦闘服好きだから見納めはちょっと寂しいって思ってたんだよね」
「主…」
「あ、深い意味はないよ!本当に」
「じゃあ、極めて今の戦闘服が着られなくなったら、主にやるよ。お下がりだけどな」
「そんなことできるのかよ」
「さぁ?…でもま、修行に行けないのは政府の都合だし、少しくらい融通きかせてもらおうぜ」
俺の言葉に、下がっていた主の眉が上がる。
ほんとうに、わかりやすいな。
わかりやすくて、可愛らしい。
「やったぁ、約束ね」
"約束"か。
「できたらな」
曖昧に返す俺。
「できたらでいいよ」
そんな俺に歩幅を合わせるように、そう答えた主。
「えー、なんかずるい。俺も極み前の何か残せばよかったぁ」
「ふふっ、確かに。だけど、私清光との極み前の思い出いっぱい持ってるよ、写真も手紙も」
「ま、確かに」
「鶴さんとの思い出も、確かにあるけどね」
「あぁ、そうだな」
「ほんと、主の成長も長いようであっという間だったな。出会った頃はこんなに小さかったのに」
「まだまだだよ、人としても。審神者としても。…同じ時代に生まれた人からしたら、何年生きてるんだよ!って話だけど。
ここの本丸軸はゆったりしてるから」