第8章 はち
夢を見た。
懐かしい夢。
懐かしいとわかるのに、私じゃないことは確かだった。
「ふぁっ、」
清光が修行に出て3日経った。
清光が戻るまで近侍はいらないと思ったけど、それじゃあダメだと名乗り出たのは鶴さんだった。
意外すぎて、笑ってしまう。
「主、朝だぜ」
「ん、今起きたとこ、」
あの日話してから、本当に普通で、まるで私の初恋が嘘だったみたいだ。
「おはよう」
「ん」
心なしか、鶴さんが優しくなったような気がする。
「そうだ、手紙来てたぜ」
「読む」
「なら、支度しないとな」
私が服装を整える後ろで、こちらを見向きもせず布団をたたむところを見れば、やっぱり私なんて眼中になかったんだと落ち込みそうになったから大きく首を振ることによってかき消した。
「清光の字、かわいいよねぇ。好きなんだよねぇ」
「そうか?」
「うん。お手紙ってなんかいいね」
「そうだな」
お世話係をやめて、距離があったから近侍の仕事を名乗り出てくれたのも、ちょっと嬉しかった。
…って、これじゃあいつまでも好きみたいじゃないか。
「鶴さんも、修行に出たら手紙くれるの?」
他愛もない話、そう思って尋ねたら痛々しく笑った。
あぁ、そんな顔するんだと、私は初めて知った顔だった。
こんなに長くいたはずなのに。
「どうかな、俺は筆まめじゃないからな」
「伊達さんは筆まめだったんでしょ?」
「そう言われてるな。俺よりも、光坊に期待した方がいいぜ?」
この会話は距離ができるんだと、打算的な私は脳にメモって話を逸らす。
こうやって、心って距離が出来てくんだろうか?
「了解。…ねぇ、鶴さん」
「ん?」
「清光からちょっと聞いてたんだけど、行くの?修行」
…あ、今日はまたダメだ。修行自体が琴線か。
うまくいかないな。
「そうだな、」
「海が綺麗なところだといいね」
「海?」
「うん。鶴さん行ったことある?」
修行から海の話は飛躍しすぎたかな思いつつ、さっきより和らいだ表情に胸を撫で下ろした。
「俺はないな…たぶん」
「そっか、じゃあ次の連隊戦は鶴さんを編成してもらおっと。海、綺麗だよ、青くて。いち兄の髪みたいな青」
「あいつは空だと思ってたな、俺は」
「たしかに、…まぁでも同じ青だね」