第8章 はち
玄関の一番近く、俺はみんなよりも遠い場所で加州を見送る。
加州は一番初めに俺を見つけて怪訝そうな顔した。
こんなところで見送るのかと言うブーイングが聞こえてくる気がする。
「加州忘れ物ないか?」
「ないよ。…ったく、俺は自分の修行より本丸が気が気じゃないよ」
「そこは大丈夫だろ。俺がしっかりしてるんだから」
「アンタが1番手がかかる。ま、落とし穴掘ったりはしない子で、兄ちゃんは安心してるけど」
「昔は小さい主が落ちたら大ごとになっていたからな」
「そうだね、って。鶴丸と話してたら行くに行けなくなっちゃう」
「そうだな、行ってこい」
「言われなくても」
他愛もない話で見送れば、意外にも簡潔に見送りを終えた加州の相棒が俺の傍に寄る。
「鶴丸、ありがとね」
「なんの話だ?」
「僕が言っても、清光素直に聞かないから」
「聞いてたのか?」
「検討ついてたんじゃないの?
…まぁでも、心配しなくても、清光は強くなって帰ってくる」
「あぁ」
「僕らも負けてられない。ま、今は僕の方がちょっとだけ強いけど」
「加州が拗ねそうだな」
「修行した僕が、修行前のあいつに負けるわけないじゃん。けど、帰ってきてすぐ越されたらいやだからね。
…っていうことで鶴丸、手合わせしない?」
「君は容赦ないからな」
「当たり前だろ、勝負なんだから」
「お手柔らかに頼むよ」
「ハンデでもつけようか?」
「ふっ、お手柔らかとは言ったが、俺も本気を出させてもらおうかな」
「そう来なくっちゃ」
ーーーー
ーー
「本当に行っちゃうんだね」
「うん、主。なに、俺がいなくて不安?」
「ううん。不安っていうより、清光が修行を諦めなかったこと、嬉しくて…でも、少し寂しい」
「そっか、愛されてるね俺」
「愛し方も清が教えてくれたからね。全部」
「やっぱり一緒に行く?」
「それじゃ修行にならないだろ?」
「全くだ。油断も隙もあったもんじゃない」
「ほらほら、行った行った」
私の返事より前に、みんなからのブーイング。
「行くかー」
「…愛してるよ、加州清光。待ってるね。強くなって帰ってきて」
「うん。じゃあ、みんな、俺の可愛い主と、本丸を頼む」
翻した戦闘服も、今日で見納めか。
…清光の旅立ちを後押しするような、晴天だった。