第8章 はち
「清光、いっていいぜ。留守は護る」
「デジャブ?」
「相棒が前を見てるのに、お前が後ろ見てたんじゃ差は開く一方だぜ?
安定と相棒で好敵手でいたいなら、お前は絶対行くべきだ」
「そんなこと言うなら、アンタはどうなの」
「俺はいいんだよ。そのままでも充分強い」
セリフをなぞるように、昨日をやり直すように。
「それは俺のセリフだったと思うけど?」
「細かいことは気にするな」
「もし俺が行ったとして、俺が行った後、アンタも行くって約束して」
どうして今更、言葉が詰まる?
主との話もついたのに。
振りかぶってきた加州を今度は俺が受け止める。
それからしばらく続いた稽古。
「…あぁ、善処しよう」
「それ、絶対嘘」
「嘘じゃない」
「鶴丸、顔あげなよ。
…鶴丸、俺はアンタにしんがりは任せない」
「え?」
「悪いけど、何があってもこの本丸で主の隣に最後までいるのは俺。
当たり前だろ?この本丸では俺が最古参で、俺が近侍なんだから。
だから、アンタが背負う必要ない………って、昨日言おうと思ってた」
「加州」
「ついでに言うと、アンタより強くなった俺がアンタを残してこの本丸やみんな、それから主を守れないはずなくない?」
「…そうだな」
「あと、今までの奴らが、アンタの仲間だった奴らがどうだったかは知らないけど、うちの本丸は強いよ」
先に落ちたのは俺の持っていた竹刀。
「敵に責めさせる隙なんてあたえない、編成を決めていた俺がいうんだから間違いない。…でしょ?」
芯のある言葉に、眼差しに、払拭したと思っていたトラウマの錆びのようにこびりついて残っていた部分が、剥がされたような感覚がする。
「それも、昨日から考えてたのか?」
「まぁね」
「君が修行から帰ったあと、俺も行けたら行く」
「この後に及んで?」
「俺は案外繊細なんだ。加州、頼みがある」
「何?」
「もし、俺が修行に出ることがあれば、の話だが。
…主に出す、手紙の事だ」
「じゃあ、それは。俺が修行から帰ったあと聞こうかな」
「わかった」
「んじゃ、まずは腹ごしらえ。鶴丸も食べてないんだろ?」
「君と話したかったからな」
「そっか。…で、俺に言いにきたってことは主と話せたの?」
「まぁな。心配しなくても主は前を向いていた」