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《刀剣乱舞》この雨が止むまでは

第8章 はち


 いつかの伽羅坊の荒療治を思い出した。

 …意外にも、こんな気持ちでも笑えるんだなと他人事のように思った。

 痛いな、先に俺が遠ざけたのに。


ーーーーーー
ーー


 助かったのは、こんな俺の思いとは裏腹に主が普通に接してきたことだ。

 「鶴さんおはよう」

 朝餉のために厨に顔をだせば、主が味噌汁を作るのを手伝っていて。

 「主、おはよう」
 「鳩が豆鉄砲を食ったみたいな顔してる。花嫁修行だよ、…なんてね」
 「花嫁…」
 「主、鶴さんが動揺しちゃうから」
 「みっちゃん大袈裟だなぁ、そんな動揺しないよね。
 あぁ、そうだ。鶴さん昨日清光と話した?」
 「え?」
 「鶴さんが部屋を出た後、清光がきてね。修行の話、したよ。まだちょっと悩んでるみたい。
 最後の一推しが足りないみたい」
 「そうか」
 「うん。あ、はい。これ持って行って」

 お盆にたくさんのお椀が並ぶ。
 味噌汁が入ると余計重い。

 「刀使いがあらい」
 「働かざるもの食うべからず、だよね。みっちゃん」
 「そうそう」
 「痛いところをついてくるぜ。…ったく、しょうがねぇか」

 渋々運んで、…なんてやってるうちに続々と人数が揃ってく。
 加州だけが、来なかった。

 「大和守、加州は」
 「清光は、自主練だって。素振り終わってからご飯食べるって言ってたけど」
 「そうか」

 そんなやりとりをしたあと、襷掛けをして握り飯を作ったのはただの気まぐれにすぎない。

 「鶴さんおにぎりにするの?」
 「みんなと食べようと思ったんだが、加州が自主練をしてるらしいんでな、ついでに俺も混ぜてもらおうかと」
 「それなら、この紅鮭つかっていいよ」

 なんて太っ腹な。珍しいこともあるもんだと、口に出しては言わないが。

 お言葉に甘えて、光坊がほぐした鮭の身を具に使う、それから冷凍してある唐揚げも付け合わせにする。

 味噌汁も適当によそって、案外様になっている。

 お盆に2人分のせて、稽古場にいけば風を切る音がする。

 邪魔しないように見ていると体が疼いてきて、興味本位で襲いかかる。
 もちろん寸止めにするつもりだったが。

 「…何事?!って、鶴丸?!」

 バシッと俺の一太刀を受け止めた加州が目を開く。

 「おはようさん、抜け駆けかい?」

 ずっとお互いに刀を下ろす。

 「別に」
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