• テキストサイズ

《刀剣乱舞》この雨が止むまでは

第8章 はち


 痛い、痛い、痛い。
 刀で切り裂かれた傷よりもずっと!

 「楽しみにしておく」

 痛みが支配するせいで、記憶が騒ぎ出さなくてちょうどいいなんて、どんな麻酔だよ。

 「清光のこと、心配してくれてありがとうね」

 暴れ出したい。
 めちゃくちゃに刀を振るって、ボロボロになりたい。

 「主と無事話せたと、報告してくる。
 加州を快く送り出してやって欲しい」

 折れる寸前にでもなれば、また君は俺を見てくれるのか?
 俺だけを見てくれるのか?

 「うん。泣かないようにしないと」

 俺が修行に出るって言っても、君は泣かないようにと言ってくれるのか?

 「それじゃあ、また」
 「うん。お世話係ではないけどさ、今までみたいに顔見せてよ」

 どんな顔で?

 「驚きを用意してくれていたらな」
 「マジックでも用意しておくね」

 必死に口角をつりあげて、審神者部屋をでる。
 雨はまだ降り続いていた。

 叫んで、飛び出して、汚したい。
 いっそ、黒くなるまで。

 自業自得だ。

 曲がり角で、村雲にぶつかる。

 気まずそうな顔をしていて、その顔を見たら思い出した。
 君ではないが、同位体に仮がある。

 「村雲」

 ひっと、肩をびくつかせる。

 「悪いな。君の望んだ世界に、俺はできなかった」
 「え?」
 「…酒も飲み切らなかったんだろうが」
 「なんの話?」
 「なんでもない、他愛もない話さ。…主を頼む」
 「ねぇ、待って」
 「なんだ?」
 「俺は、主の犬だから…だから、主からは話を聞かないって言ったの。無理やり聞くのは俺の領分じゃないって」
 「……いい奴だな、君」
 「どうかな、主の弱みに漬け込んだだけだよ」

 八の字の眉が、さらに下がる。

 長めの袖で、俺の目元を拭う。

 「雨、入り込んできたみたい」
 「悪いな」
 「これ以上強くなる前に、雨戸閉めないと」
 「勿体無いな」
 「雨好きなの?」
 「いい思いでがないって思ったんだけどな。…思い出せないだけだったみたいだ」
 「そうなんだ。じゃあ、それ今度聞かせてよ。俺のとっておきあげるから。で、俺の話も聞いてよ」
 「五月雨じゃなくていいのか?」
 「雨さんが夜戦の時にでも。だって、今の鶴さん………なんでもない。じゃあ、俺お腹痛いし行くね」
 「あぁ」

 アニマルセラピーってやつか。
/ 155ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp