第5章 MENさんとタイタイさんの守護霊
「鍵閉めてないとか不用心だなぁ……」
と言いながら玄関の扉を開けたのは、アゴヒゲを生やした男性。私がMENさんの後ろでその人を覗き込むような体勢になると、必然的に目が合った。
「え、彼女っ?」
とアゴヒゲの男性が私とMENさんを交互に見ながら言う。それもそうか。これでも私は女だし、そう思われても仕方ない。
「ああ、スタッフの人」
とMENさんに紹介され、私は慌てて名刺を渡した。その名刺にドズル社のエンジニアであることはすぐに分かってくれるだろう。
「あ、スタッフの人ね。いつもお世話になってます〜」
私から名刺を受け取るなり男性は律儀に会釈をする。私もつられて頭を下げるが、彼が誰なのか分からずキョトン状態。多分、お世話になってるならゲーム実況者の一人……?
「すみません、ドズル社に来て日が浅くて……えっと、アツクラとかの人ですか……?」
こんなこと、他のスタッフなら聞かないんだろうなと思いながらも私が訊ねると、男性はパチクリと瞬きをしたのちニコリと笑んだ。
「ああ、そうそう、アツクラもやってるね」
と言いながら男性は玄関に入って扉を閉めた。ゲーム実況者さんは顔出ししていない人も多いから、あまり外で話すのはよくないのだろう。
「ちわっす、タイタイです。これからお世話になると思いますが、よろしくお願いします」
「ああ、タイタイさん……」
すみません、タイタイさん。アツクラのメンバーのことあまり知らないんです、と心の中で謝罪していると、MENさんがこう付け足してくれた。
「コイツとは帰宅部ってグループでゲーム実況してるんすよ。幼なじみで」
「ああ、それで!」私はここでようやく納得した。「これから撮影の時間ですか? 私、そろそろ帰りますね」
と私が言うと。
「あれ、なんで今日ここに来たんだよ?」
「はぁ? お前、今日一緒に飯食いに行こって言ったじゃねーか!」
「あ〜……忘れてた」
MENさんとタイタイさんのそんな会話のやり取りを目の前で見守る私。幼なじみというだけあって、随分仲が良さそうだ。
「ふふ、では私はここで」
私は微笑ましい感情を抱きながらMENさん宅をあとにした。タイタイさんには、守護霊や怪しい幽霊は憑いていなかったので、落ち着いて話すことが出来たのだ。