第11章 思い込み
いつの間にか、彼が傍にいて後釜要員にそう言っていた。仕事だから、私は彼にこの事を話してはいない。なのに、何故?
「えっと・・・貴方は?」
「高倉だ。この会社の専務。」
「そ、それは失礼しました。」
「それで、今の顔は何?」
「えっ?顔と言われましても・・・。」
「気付いていない訳じゃないだろ?分かってて、そんな不愉快な目を向けているんだろうが。」
「お言葉ですが、専務はご存知ないのかもしれませんが。腰掛で入社してやっと二十八にもなって捕まえた相手におんぶに抱っこってどう思います?」
あぁ・・・こんな顔もするのか。表情がごっそり抜け落ちた。
「キミは、彼女の何を知ってそんな事を言うんだ?」
「何って、見てれば分かりますって。男に寄生して生きて行こうって思ってる女だって。男の方も馬鹿ですよね?どうせなら、もっと若い女を選べばいいのに。専務もそう思いません?」
「思わないな。全く。・・・って、やはりここに来てたのか、侑佑。」
「兄っ、社長・・・。」
「社長っ!!?お、お疲れ様です。」
「お前、もういいよ。今すぐ帰れ。」
彼より、彼を乏した事で社長がお冠だ。怖い・・・凄く怖い。そして、誰かが彼を呼んだの?あぁ・・・先輩か。一体、この状況どうすればいいの?
「えっ、どういう・・・。」
「お前は、私の弟である我が社の専務の事も馬鹿にしただろ?」
「えっ?専務の事なんて馬鹿になどしてませんよ。」
「男の方も馬鹿ですよね?どうせなら、もっと若い女を選べばいいのにと言っただろ。」
「そ、それは南野さんの相手の事で専務の事ではありませんよ。」
「南野さんの婚約者は、私の弟で専務の侑佑だ。」
空気が冷たい。何なら、吹雪いている。
「我が社の風紀を乱す者は必要ない。今すぐ、迅速に帰れ。お前は解雇だ。」
「社長、その辺で。後は私が請け負います。さ、キミは迅速にその社員証を私に渡してそのまま帰りなさい。社長のお言葉の通りに、クビです。」
社長と同じ事を言っている。
「だから言ったのに・・・幾ら、伝手で雇うのを頼まれたからって。次、僕の言う事聞いてくれないのなら、縁を切るよ?」
ここも、激怒中だ。
「さ、迅速に動いて下さい。」
あれよあれよと言う間に、後釜は連れ出されて行った。