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好意は好意のままでは終わらない

第5章 再会


新しく変わった担当の銀行行員が、当社に訪れた。前任者に連れられて現れたのは、大学生の時に付き合っていた人。外面が良くて、人当たりもいい。そういう人だから、私も騙されていたのだけど・・・。

何故、そんな笑顔で気安く声を掛けて来る?あの時、私を捨てた時に言った言葉今でも忘れていないのだけど?

「やっぱり、南野じゃないか。ここに勤めていたのか。久しぶり。元気そうだな。」

前任者には、大学の同サークルの仲間だったと私に話しをしている元カレ。しかし、私はキョトン顔でこう言った。

「えっと・・・どちら様でしたか?」

あぁ、元カレの表情が固まった。相変わらず、機嫌が悪くなると唇を嚙みしめる癖は変わらないらしい。

「ま、まぁ、卒業してから何年も経つから忘れたのかな?アハハ。あぁ、そうだ。名刺渡しておくよ。」
「いえ、上司と対応されるでしょうから一介の私には。では、これで失礼します。」

そう言えば、そうだったな。この人の親は銀行で立場ある人だったっけ。親の縁故で採用されたのだろう。卒業の時には、どうでもいい人だったから興味もなかった。

それにしても、すれ違う時のあの鋭い目も相変わらずだ。ここで上手くやっていくには、大人しく仕事をしているだけでいいのだけど・・・あの男は、使えるものは何でも使うキャラだった。

そう想像して・・・彼には、元カレのことを説明しておいた。故に、この対応の速さだ。

会社のロビーで人待ちの元カレこと小林 健男が、私を見つけて笑顔で声を掛けて来ようとして・・・踏みとどまった。私の隣りには、イケメンが二割増しのスーツ姿の彼がいる。

「相変わらず、こういうところはフットワークがいいな。」
「そうだね。」
「あぁ、留美子さんからこの事を聞いてから調べたんだよね。」
「何を?」
「あいつ、既婚者だよ。指輪はしていないけれど。上役の娘と結婚してる。」
「そうなんだ、まぁ、可笑しくない年齢だもんね。」

会話の内容はこれだけど、上辺は笑顔で会話中だ。そんな私たちに、元カレは声を掛けて来た。しかし、返答したのは今カレだ。

「お久しぶりです。小林さん。」

まさか、今カレからそんな風に返されるとは思ってもみなかったのだろう。今カレの顔を食い入る様に見ている。そして、どうやら思い出したらしい。
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