第1章 The only dear star【浮世 英寿/ギーツ】
「こ、こんな人前でできるわけないでしょ!」
何を考えているのか、この男は。
いや、英寿のことだ。この展開も折り込み済みということすらある。
その証拠に、彼は「ふーん」と意味ありげに笑っていた。
「人前じゃなきゃできるわけだ?」
「な……⁉」
二の句が紡げない彼女へ畳み掛けるように、「けどさ」と英寿は続ける。
「人前でやるからこそ意味があるんじゃないか?」
「は……?」
もはや自分がどういう顔をしているのかすら分からなかった。一瞬の間で考えることが多すぎる。
ほらほら、とでも言いたげに目を閉じる英寿の整った顔を見ながら、彼女は軽く腰を浮かせてテーブルに手をつく。
人前なのに……周囲の視線を感じるような気もしたし、実際にこちらを見ている客もいることだろう。
ごくりと口内に溜まった唾を呑み込み、真っ赤になった顔を意識して知らないふりをして。
ギュッと目を閉じ、唇を彼に近づける。
ムリだ……自分からキスなんて……!
そんな言葉が頭をよぎったとき――……。
「――はい、時間切れ」
柔らかな感触が唇に触れ、あっという間に離れていった。
左手でメニュー表を持った英寿が、自分たちの口元を隠し、触れるだけのキスをしていったのだと、遅れて脳が理解する。
メニュー表を持つ彼の反対側の手が、彼女の指を絡めるようにして握っていた。