第8章 Humorless Joke【黒鋼 スパナ/ヴァルバラド】
「わたしより可愛い子いっぱいいるし……りんね とか、蓮華先輩とか……鏡花さんだって……他にも、キレイで、強くて、ステキな女の人、いっぱいいるでしょ」
自信ないよ。わたしはスパナと比べると子どもで、どんなに頑張ってもその差を埋めることはできないから。
スパナの胸元に顔を埋めて、彼女がうじうじし始める。
何も悩むことはないはずなのだが、彼女のネガティブには慣れっこだ。
むしろ、陰であれこれ悩まれるより、こうして分かる形で見せてくれるのはありがたい。
そして、彼女が悩みを吐露するのは自分の前だけ。
彼女の弱い部分を見られるのも、悩みを解消してやれるのも、自分だけだ。
「九堂 りんね は名門の出身で、将来 有望視されている錬金術師。銀杏 蓮華はよく知らん。鏡花さんには色々と教わったが、恩義以上の特別な感情はない。他の連中は……知らん」
そもそも、特別な女と認識しているのは彼女だけ。
『守りたい』と思うのも、『触れたい』と思うのも、『抱きしめたい』と思うのも。
スパナの言葉に、彼女は「うーん……」と何か唸る。何か考えているのか。
まだ自分の至らぬ点を探しているのかもしれない。
「どんなに他の女と比べても仕方ないだろ。お前より優秀な錬金術師はいくらでもいるだろうが、俺が選ぶ女はお前しかいない」
「じゃあ、スパナは不安にならないの?」
「は?」
思わず聞き返すと、彼女は「だって」と何やら強気に返してきた。