第8章 Humorless Joke【黒鋼 スパナ/ヴァルバラド】
「スパナより優秀な錬金術師はそんなにいないかもしれないけど、わたしの周りにだって歳が近くて仲の良い男の子はいるし……宝太郎とか、錆丸先輩とか……ヤキモチ妬かないの?」
ピキッと顔が引き攣るのを感じた。
「……それは……とんだ笑えないジョークだな……」
怒りで声が震えるのが分かる。
彼女も地雷を踏み抜いたのが分かったのか、「ひっ」と小さく悲鳴を上げ、身を引いた。
もちろん、そんな彼女を逃すはずもなく、ガシッとその小さな身体を引き留める。
「俺の気持ちを試そうとはいい度胸だ。受けて立ってやる」
「あ……いや、その……」
青い顔をして震える彼女に、スパナは口角を上げて引き攣った笑みを浮かべた。
「どんな男が現れようが、お前が選ぶ男は俺しかいない。後にも先にも、俺ただ1人だ」
想いの強さだけではない。この世界で最も彼女を理解し、支え、愛し、幸せにできるのは自分だけだ。
両頬に手を添え、引き寄せるようにして顔を覗き込むと、彼女は目をパチクリとさせる。
そして――……。
「それは、スパナにとってのわたしも……同じ……?」
恐る恐るといった様子で尋ねる彼女に一瞬 面食らうものの、スパナはすぐに返した。
「当たり前だろ。じゃなきゃ、嫁に貰おうなんて思わない」
どんな女が現れても、スパナが選ぶのは彼女以外にあり得ない。
頬に触れていた手を首筋まで撫で下ろし、その細い首筋に口づけを落とす。
「す、スパナ?」
驚いて引き離そうとする彼女の腕を掴み、構わず喉にも吸いついた。
「ぃ、っ……」
痛みが走ったのだろうか。
それでも、分からず屋の彼女は、きっとこれくらいしなければ分からない。