第8章 Humorless Joke【黒鋼 スパナ/ヴァルバラド】
「わぁ、すごい! さすが、スパナ。わたし、いつかスパナみたいになれるかな?」
「ムリだろ」
キッパリと言い切ると、彼女が「ガーン」と口を開けて固まった。
自分みたいになれないと言われて、そんなにガッカリしたのか。
惚れた女に「憧れる」と言われて悪い気はしないが……はっきり言ってやった方がいいだろう。
「俺とお前は別の人間だ。それ以上に、考え方もだいぶ違う。勉強して技術を磨けば、俺のレベルになることはできるだろうが、『俺のような錬金術師』にはなれない」
彼女は目をパチクリとさせる。
「なんだ?」
「ううん。スパナはやっぱり優しいなぁって」
微笑む彼女に、今度はピシッとスパナが固まる番だった。
緩みそうになる表情筋を全力で固定し、意味もなく「ゴホン」と咳込んだ。
「じゃあ、2番目の夢は、スパナと同じ超A級錬金術師になるってことにしよう」
そうか、と頷きかけて「2番目?」と首を傾げた。
すると、彼女は「そーだよ」とクスクス笑う。
「1番はなんだ?」
「そんなの決まってるよ」
そう言うと、ただでさえ近い距離をさらに詰め、彼女はグッとスパナの腕を掴んで見上げてきた。
「『スパナのお嫁さん』」
ギューッと、スパナの血圧が上がって、今度は急速に下がっていく。
全く、この女は本当に、何も分かっていないのだ。