第8章 Humorless Joke【黒鋼 スパナ/ヴァルバラド】
「見て見て、スパナ! ほら!」
そう言って、彼女はアカデミーの中庭にある大きな噴水を指差した。
彼女の錬金術で浮遊する水球が漂い、光が水飛沫を反射してキラキラと輝いている。
黒鋼 スパナはベンチに座ったまま、何も言わず、黙って幻想的な光景の中で楽しそうに笑う彼女を見ていた。
どうして、彼女といるときだけ、景色はこんなにもキラキラと輝いて見えるのだろうか。
だが、そんなスパナの心情など知らない彼女は、何も言わないどころか表情も変えないスパナに、ムッと頬を膨らます。
「こんなことではしゃいで、子どもっぽいって思ってるんでしょ」
不機嫌そうにスパナの隣に腰をかける彼女。
アカデミーの1年生で、スパナは超A級錬金術師。
年齢も、彼女は16歳で自分は24歳。
だから、妙に歳の差や格差を気にする傾向にある。
「別に、子どもっぽいなんて思ってない」
はしゃいでいる姿が可愛いとは思っているが、そんなこと恥ずかし過ぎてとても言えない。
納得していないのか、「ふーん」ジト目で見てくるが、やはり可愛い。
めちゃくちゃ見てくる彼女の視線に耐えられず、フィと目を逸らし、指輪をつけた右手を噴水に向けた。
指輪が光ると、スパナの錬金術によって水がゆらゆらと不規則に踊り、そこに小さな虹を架ける。