第7章 HAPPY END【富加宮 賢人/エスパーダ】
「何度も、感情に任せてお前を抱こうって考えていた。頭が思い出せなくても、きっと身体は覚えているはずだって」
「富加宮、くん……」
不意に、賢人の身体が震えていることに気づいた。
「お前は俺を優しい男だと思っているのかもしれない。だが、本当の俺はそこらの男と変わらない。打算的で、下心だらけの男だ。お前に優しくしていたのも……ただ、良く思われたいだけで」
「そんなこと……」
「お前に恋人だと言わなかったのは、お前が困ると思ったからだ。知らない男が急に恋人を名乗ったら、困るだろ?」
「それは……」
確かに戸惑うだろう。ならば、賢人は自分のことを考え、あえて隠していたのだろう。
だが、彼は「いや、そうじゃない」と自分で自分の言葉を否定した。
「本当は怖かったんだ。俺はお前を失うのと同じくらい、お前に拒絶されたり、嫌われたりするのが怖い。俺の気持ちを受け取ってもらえないことが怖い。だから、恋人だと名乗れなかった」
不安だった。彼に惹かれる自分に気づいて。
賢人と過ごした時間が増えるごとに、彼への気持ちが募っていくのが。
彼の優しさが自分への好意だったならどれほど良いだろうと。そんなことを考えて、自惚れる自分がイヤだった。
けれど、それ以上に賢人はずっと不安や恐怖、悲しみや苦痛に苛まれていたのだ。