第7章 HAPPY END【富加宮 賢人/エスパーダ】
「私、自分のことばっかりだ……」
ギュッと、賢人の大きな身体を抱きしめる。
こんなに好きなのに……想われているのに、どうして思い出せないんだろう。
思い出したいのに……賢人が想ってくれている分を返したいのに……。
「ごめんなさい……私、まだ富加宮くんのこと……」
「もういい」
言い終わるのを待たず、賢人の唇が彼女の唇に触れ、すぐに離れていく。
「童話みたいに、都合よくはいかないな」
これが王子と姫の物語だったなら、今の口づけで、姫は王子を思い出しただろう。
「だが、もう気にしない」
過去のことは、俺が覚えておく。
だから、これからのことを話そう。
「たとえお前が俺を思い出せなくても、俺がお前を好きで、お前が俺を好きでいてくれるのなら、それはもうハッピーエンドだ。そうだろう?」
「うん」
ありがとう、賢人くん。
そう言うと、彼は嬉しそうに笑った。
それは、記憶を失くした彼女が初めて見た、賢人の心の底からの笑顔だった。
《 F i n ... 》