第7章 HAPPY END【富加宮 賢人/エスパーダ】
夕方。
仕事帰りだからか、シャツにジャケットを羽織った賢人が病室を訪れた。煩わしいから来る途中で外したのか、ネクタイは締めていないようだ。
「……どうした? 何かあったか?」
沈んだ空気を敏感に感じ取ったようで、賢人はベッドへ近づき、彼女の頬に触れる。
ビクッと無意識に身体が強張ったのが分かった。おそらく、賢人も気づいただろう。
反射的に手を引こうとしたようだが、彼はそのまま手のひらを彼女の頬に沿わせた。
「お前を悩ませているのは……俺か?」
かなり迷った。
この想いを、伝えるかどうか。
彼の本当の気持ちを知ることが怖い。
けれど、この不安を抱えたまま、賢人と同じ時間を過ごすのも苦しい。
堪えきれず、涙が頬を伝う。その涙を、彼は黙って拭った。
「……抱きしめてほしいって……そう言ったら、富加宮くんは私を抱きしめてくれますか?」
「お前が望むなら」
「じゃあ……キス、してほしいって言ったら?」
彼の反応が怖くて俯いていると、触れていた賢人の気配が離れる。
「誰かから聞いたのか。俺とお前が付き合っていると」
「…………」
沈黙。しかし、肯定のための沈黙であることは明らかで。
深いため息を吐く賢人に、彼女の心はすくみ上がった。