第7章 HAPPY END【富加宮 賢人/エスパーダ】
不意に、賢人のスマホに電話の通知が入る。
「すまない。少し席を外す」
「気にしないで下さい。どうぞ」
賢人は「すぐに戻る」と言って病室を出て行った。
賢人が出て行った扉をしばらく見つめていたが、程なくして読みかけの本に手を伸ばす。
「いつになったら、記憶は戻るのかな……?」
賢人が持ってきてくれる本は、童話が多い。その物語の中では、王子のキスで姫は目覚め、運命的な力で惹かれ合い、愛の力で様々な奇跡を起こす。
けれど、自分には恋人がいない。
いや、いないというよりは、覚えていないのだ。
「もしも、富加宮くんが……」
自分の恋人だったなら……。
そこまで考えて、首を左右に振る。
こんなことを考えては賢人に失礼だ。
あれだけ優しくてカッコいいのに、恋人がいないはずはない。
「…………」
そうだ。毎日 お見舞いに来てくれるのも、彼の優しさ。勘違いしてはいけない。
「やっほー!」
ガラッと扉を開けたのは、明るい髪色に流行の服を着た幼馴染みの須藤 芽依。
その後ろには、デザイナーズ系ファッションを着こなす神山 飛羽真と髪をきちっとセットした真面目な空気を纏う新堂 倫太郎である。