第7章 HAPPY END【富加宮 賢人/エスパーダ】
「やぁ、起きてたか?」
病院のベッドで本を読んでいた彼女は、ゆっくりと顔を上げて扉へ視線を向けた。
「富加宮くん」
背の高い、整った顔立ちの青年に、彼女は栞を挟んで本を閉じる。
「どうぞ」と声をかけると、彼はにこやかに病室へ入り、手に持っていた紙袋をベッド脇の机に置いて苦笑した。
「賢人でいいって」
「でも……」
知り合って間もないのに、下の名前で呼ぶなど馴れ馴れしくはないだろうか。
「そろそろ読み終わる頃だろう。新しい本を飛羽真から借りてきた」
「いつもすみません」
紙袋に入れられた数冊の本を受け取ると、賢人は眉を下げて苦笑する。
「気にするな。謝罪を聞くくらいなら、礼の方がいい」
「そうですね。ありがとうございます」
言われた通りに言葉を変えるものの、賢人の表情はどこかぎこちなく、物悲しさをは変わらない。
1週間前、彼女は事故に遭い、病院で手術を受けた。
命に別状はなく、2日後に目を覚ましたものの、頭を強く打っているらしく、直近で一年分の記憶を失くしていると医者に言われた。
日常生活に支障はないものの、見舞いに来てくれる人たちのことが分からないのは申し訳ない。毎日 欠かさずに来てくれる賢人のことも、全く思い出せなかった。