第1章 The only dear star【浮世 英寿/ギーツ】
彼女も別に、結婚の意思がないわけではない。ただ、怖いのだ。
思っていたのと違うと幻滅され、捨てられてしまったら……すでに、英寿なしでは生きていけないのに。
無意識に俯いて、ギュッと拳を握り込む。
つき合い始めて、今日でちょうど1ヶ月。
そのことすら把握していなかった。本当はガッカリしているのではないだろうか。
そんなことを思っていると、英寿が懐から細長い包みを取り出し、テーブルに置いた。
赤い包装紙に金と黒のリボンが高級感を醸し出し、彼のセンスの良さを窺わせる。
「1ヶ月の記念だ。お前にやる」
「え……でも……」
パッと顔を上げ、躊躇する。
「わたし、何も用意してないのに……」
今からでも買いに行くべきだろうか?
だが、スターとして常に一流のものに慣れている英寿に、自分は何を渡せるのだろう。
「いいから。開けてみろよ」
おずおずと手を伸ばして箱を取り、丁寧に包装を解く。
「あ……」
箱に入っていたのは、「A」のペンダントトップを飾ったネックレスだった。デザインは女性ものというより、男性向け。
右側のラインに模様が入っているが、よく見れば細い狐のシルエットをしている。おそらく、特注の品物だろう。
「お前、金属に弱いって言ってたろ。できるだけアレルギーを起こさないような素材で作らせた」
金属で発疹ができやすい体質なのは事実だ。だが、その話をしたのはたった一度。
それも、何気ない話の中で、「金属とは相性が悪い」と言っただけ。そんな些細なことを気にかけてくれたのか。