第1章 The only dear star【浮世 英寿/ギーツ】
雰囲気のいいおしゃれな喫茶店。その窓際の席で、二人の男女がくつろいでいた。
男性はコーヒーをブラックで飲み、女性はカフェラテにさらに砂糖とミルクを入れ、フーフーと息を吹きかけて冷まし、口をつける。
周りの客の、男女どちらの視線も集めてしまっているのは、2人の容姿が整っているからだけではない。特に男性は、『スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズ』の二つ名でテレビや雑誌で見かけない日はない有名人だ。
しかし、2人に気を遣った客たちは、チラチラと様子を盗み見るものの、声を掛けるような野暮はせずに見守っている。
「まだ決断できないのか? いつまで待たせる気だ?」
静かに口をつけたティーカップを優雅な所作でテーブルに置き、彼――浮世 英寿は頬杖をついた。
「決断って……まだつき合い始めて1ヶ月くらいでしょ?」
「"もう"1ヶ月だ。今日でちょうどな。頃合いだろ」
「つき合って1ヶ月で結婚は、世間的には早すぎるの」
拗ねたように唇を尖らせ、英寿は軽くため息を吐く。
「俺はスターで、金も生活も困らない。おまけに、一生俺といられるオプション付きだ。迷う理由なんてないだろ」
ものすごい自信である……が、確かにその通りだ。
しかし……。
「なんで英寿といられるのが"おまけ"なのよ。1番重要でしょ」
小さく呟いた声が聞こえたらしく、英寿はフッと一瞬だけ柔らかな微笑を見せた。その顔にキュンと心臓が跳ねる。