第5章 She is adorable【詩島 剛/マッハ】
「剛?」
「オマエ、オレの前以外で笑うな」
何を言い出すのかと思えば。
「四六時中 仏頂面でいろっていうの? おかしいでしょ」
「別にいいだろ、仏頂面でも。どんな顔でもカワイイけど、笑ってるよりマシだ」
「かわ……⁉︎」
オマエの目から、自分はどんな風に見えているのか。
それでも、そんな風に思われて嬉しくないわけはなくて。
にやけそうになる口元を引き締める。
すると、剛は不意に立ち止まり、こちらを振り返った。
彼の真剣な眼差しに見下ろされ、ついビクビクしてしまう。
そっと伸ばされた手が、目元を優しく撫でた。
「……悪い」
「え……?」
謝罪の意味が分からずに呆けていると、彼は微かに頬を赤らめて目を逸らす。
「無茶言ってンのは分かるけどさ……ムカつくんだよ。他の男がオマエをカワイイって言うの」
オマエの可愛さはオレだけが分かってればいいのに。
子どもみたいに拗ねる剛に、胸がギュッと苦しくなる。
なんだかたまらなくなって、彼女は剛の胸に飛び込んだ。
「わっ……どした?」
「別に」
ニッと笑顔を向けると、彼もようやくいつもの弾けるような笑みを見せてくれた。