第5章 She is adorable【詩島 剛/マッハ】
「何回言えば分かンだよ!」
せっかくのデートでケンカ。
初めてのことではないとはいえ、面白くはない。
待ち合わせの場所で見知らぬ男たちに声を掛けられ、恋人である詩島 剛に助けられたのは、ついさっきのことだ。
「オマエ、自分がカワイイんだって自覚あんの? 愛想よくしたらつけ上がられるって言ってンだろ」
「アタシのこと『カワイイ』なんて言うの、アンタだけよ。他にカワイイ子なんていっぱいいるじゃない!」
剛はことあるごとに「カワイイ」と言ってくれるが、女友達以外にそんなことを言われたことはない。
生来 気が強く、何かあれば言い返す性格。
「可愛げがない」とは、よく言われたものだ。
最近は笑顔で曖昧にはぐらかして躱わすという術を身につけたが、剛はそれが気に入らないらしい。
「カワイイ女は確かにいるけど、オマエ以上にカワイイ女なんていねぇじゃん」
「はぁ……っ⁉︎」
ボンッと顔が赤くなるのが分かった。
目の前のこの男は怒っているはず。
それなのに、なぜ自分はこんなに恥ずかしい思いをしているのか。
はぁ……と剛は大きくため息を吐き、ギュッと手を引いて道を歩き始めた。