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七十二候

第40章 蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)


 すぐにでも駆けつけてあげたい、と思ったけど、今は私の出る幕ではない。
 もともと徹が帰ってくるのを学校で待っていたが、私はいない方がいいと思い先に帰ることにした。

 しばらくして、私の家の近くで徹と岩ちゃんが語っているのを家から見た。男同士の友情だろうか。私も胸が熱くなる。
 このふたりの間に今は入るべきではないな、と思った私は徹の家の前で待ち伏せすることにした。少し経つと目を赤く腫らした徹が帰ってきた。
「萌……」
「私、小学校から今まで私は徹のバレーを見てきた」
 私は徹に今まで言わなかった思いを語る。
「少しずつできるようになって喜ぶ徹の顔。挫けそうなときも、がむしゃらに努力をしているときも、全部。最近まであまり話す機会はなかったけど、見ていたんだよ」
 徹は黙って私を見つめていた。すっかり泣きはらした目で。
「徹は努力の天才だよ。そうして得た力は本物だし、県内のバレー部たちはみんなが徹を脅威として見てきた。だけど悔しいけどどうにも壁が厚くて歯が立たないこともある。とんでもない天才は存在する。神様は不公平に人を作ったんだよ」
 徹は私を黙って見つめていた。
「私思うの。徹は神様から“お前には試練を多く与えた。この条件で、お前はどこまでできるんだ?“と試されている人なんだよ」
 バレーはひとりで戦うものではない、と岩ちゃんから教えてもらうことで徹はひとりで戦うことをやめた。チームの力を最大限に高めるという武器を得た。どうか、ここで挫けずに上を向き続けて欲しい。
「徹の努力し続けることができる力は、他の人にはない素質だし才能だと思うの。だから神様に俺はこれで勝てるんだって証明しようよ。どんなに時間がかかっても!」

 徹は苦しい表情を見せて力いっぱいに私を抱きしめた。私の首元に頭をうずめながら「うん……ありがとう」と掠れた声で言った。
「私も、徹からたくさん励まされたから。私じゃ頼りないけど、一緒に夢を目指そう」
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