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七十二候

第38章 鴻雁来(こうがんきたる)


 ふとメロディが浮かんでくる。冬を耐え忍んだ桜が一斉に開花した姿。そしてすぐに潔く散る姿。儚くも美しい姿。でも、思いがけないタイミングで再び輝くことがあるんだ。それは人生にも通じるものがある。
「人生、捨てたもんじゃないな」と、浮かんだメロディをノートにしたためながら思った。
 今日はいい日だな。そういえは、今日は信号が全部青だった。赤信号で待つことなくスムーズに歩けたし、電車だって何度か乗り降りしたけど、私が乗車した電車の車両は、全部出エスカレーター前で停車してくれた。

 コンクールが終わったら、本格的に作曲に着手しよう。相変わらず抱える仕事はわたしの手に余っている。でも、仕事がない音楽家がざらである現実を理解しているし、私は幸せな人だと思う。
 やがて徹から返信が届く。
「すごっ! 異常気象かと思った! 秋冬にも桜は咲けるんだね」
「うん、咲ける奴は咲くべきタイミングを読まずに咲けるんだよ」
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