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七十二候

第37章 水始涸(みずはじめてかる)


「衣装も素敵だね」
 今日も吹奏楽団で着るお気に入りの勝負服を着ていた。
「あ、これはアルゼンチンに住んでる彼氏からもらったの」
「アルゼンチン! ずいぶんと遠距離だね。1万キロ以上の距離じゃないか」
「うん、我ながらすごいと思う。心折れそうになることもあるけど、よくやってるなーって」お互い進む道も住む場所も違っているけど、私は徹が好きだから。それだけの理由。だけど7年も大切に育てた気持ちだった。
「そばにいないからこそ心を強く持てるんだろうね。じゃあ僕は日本では萌ちゃんを支えさせてもらいます。リサイタルの伴奏は僕に任せて。コンクール本選ももちろん力になるからね」
 前田くんは聖人君子のような人だ。彼から御来光が見えた気がした。
 私は、「ありがとう」としか返せなった。聖人君子はピアニストだ。ありがたい申し出に頼らざるを得ないけど、逆境をバネに自分を強くしたいのも事実だった。助けられてばかりではダメだ。徹のように多くのものを与えられる人になりたいんだ。
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