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七十二候

第37章 水始涸(みずはじめてかる)


 おそるおそる、私は徹に「ほんと?」と聞いた。すると、徹から電話がかかってきた。
「萌、ごめん、他意はないんだ。本当によかったな、と思っただけだよ。しかし萌はすごいね。プロになってからすっごい活躍していって毎日進化してる感じがする」
 それならいいんだけど……。一応の言葉に安堵する。
「そっか。ありがとう。でも私の尊敬する人はアルゼンチンにもいるから。その辺忘れないでね」
「へぇ~奇遇。俺もアルゼンチンに住んでる」
「ちょっと!」
 やっぱり思い過ごしなのだろうか。私はどうすれば良いのか分からなかった。
「徹。私さ、たくさんのことを両立できるほど器用ではないんだけど、アンサンブルの団体を作ろうと言われたんだ。今、迷ってる」
「えー? なんで迷うの? 数少ないチャンスだよ。俺ならやる」
「そっか、徹はすごいね。中途半端になって迷惑かけるのは嫌だし迷うよ」
「萌はそんなことしないじゃん。全部ちゃんとやろうとする。だからご飯や睡眠の時間を平気で削ってさ。でも、身体が資本なのは忘れないでね」
 過去に何回か迷惑をかけてきた、体調管理。プロのアスリートが言うと言葉の重みがあった。
「わたしアスリートの彼女やってるのに、その辺は確実に失格だよね」
「ははは、俺は音楽家の彼氏だけど音楽のことはよく分からないよ! でも何事も身体は資本だと思う。これを機に栄養も気遣ってみてはどう?またやること増えちゃうか」
「ううん、ちゃんとする」
 私は徹からアドバイスを貰ってばかりだ。情けない。
 おすすめの栄養学の本を紹介してもらい、アンサンブルはやることで結論づけた。

 翌日から私は吹奏楽団の公演が2日連続で入っていたが、難なく乗り切った。2日目の公演の終演後、前田くんが楽屋に差し入れを持って来てくれた。
「素晴らしかったよ!」
「ありがとう」
 銀座の有名ホテルのクッキーをいただく。品のある差し入れに育ちの良さを感じてしまう。
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