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七十二候

第36章 蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)


 彼は幼少期から数々のコンクールで入賞を果たす実力者だ。柔和でいい人そうで安心した。そして、彼は音楽が大好きなのだと感じる。今回のリサイタルのプログラムのメイン曲にブラームスのソナタを入れたのだが、彼は偶然にもブラームスを今年の研究テーマにしているらしく、情熱的にブラームスについて語ってくれる。私もこの曲が大好きだ。こんなにも頼もしい人を紹介されてよかった。
「素敵な人を紹介してくれてありがとう! 今は大変だと思うけど、改めてお礼させてね」とまゆにメッセージを入れた。
「よかった! 私はめっちゃ元気だよ。お礼なんてとんでもない! 今度会おうね」
 まゆも実力者だと私は思う。音楽は続けて欲しい。いつか、何年先か分からないけど、また一緒に演奏ができたらいいな。
 
 徹はシーズン入りとなり、これから3月までアルゼンチンのリーグで戦うことになる。これまでもオフの日もほぼ休みなくバレーに打ち込んできた。きっと彼なら大丈夫。
「おはよう! 今日もいい試合ができますように。いい1日を!」と夕刻にメッセージを送った。返信が帰って来たのはアルゼンチン時間の夜になってから。
「お疲れ様。今日はいきなり負けちゃったよー。リサイタルの合わせはどうだった?」
「お疲れ様。そうだったんだね。残念だったね。リサイタルの合わせは、前田くんと初顔合わせだったけど、いい人そうで安心したところ。音楽に真剣な方で尊敬しちゃう」

 一旦ここでメッセージは途切れた。しかし翌朝返信をもらった。
「そうなんだね! 尊敬できる人と演奏できるのは幸せだね。萌にとってかなりプラスになるし、本当にそういう人がそばにいてよかった」

 特に他意はないのだろうけど、私は、徹のこの言葉に何か含みがないか、勘繰ってしまった。私の考えすぎなのだろうか。少し寂しいと感じてしまった。
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