• テキストサイズ

七十二候

第35章 雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)


 本選に出場したのは、やはり経験豊富な奏者ばかりだ。ぬーぼーもいた。
 私は決して天才奏者ではない。天才ならば絶対音感もあっただろうし、思いのままに楽器を操れただろう。私の今の技術は練習と経験の賜物だ。だけど、きっと天才と呼ばれているであろう18歳の奏者は予選敗退となった。君はきっと、これからいろんなことを学んで経験していく。その先、もしかしたら一緒に仕事をすることになるかもしれない。そんな未来を想った。

 徹と岩ちゃんにも時間を確認してから報告し、ほどなくして岩ちゃんからメッセージをもらう。
「おめでとう!めっちゃ応援するわ! 本選は後日ラジオやテレビでやるんだろ? みんなに自慢する」
「岩ちゃん、ありがとう! 本選も頑張るね」
 徹からメッセージを貰ったのはもう少し経ってからだ。
「おめでとう! 今の萌なら問題ないと思ってたよ。次も大丈夫! 今日はゆっくり休んでね」
「ありがとう! 徹にたくさん励まされたからね。本選の演奏順は最後から2番目で、いい演奏順を勝ち取ったよ。徹もシーズンもうすぐだね。頑張れ!」

 さあ、今日は美味しいものを食べよう。同年代のクラリネット仲間が打ち上げを企画してくれた。今日くらい少し浮かれてもいいかな。
 たくさんの人にお祝いされて、私は幸せ者だ。すっかり秋風を感じ心地よい気候の中で、嬉しいお酒を飲めたのは久しぶりだった。
 私には次がある。次のステージで演奏できるのは幸せなこと。今日の結果はきっとたまたまであって、審査員次第では結果は違っていただろう。だからこそ、自分の運の良さに感謝しなくてはならないし、チャンスはないがしろにしてはならない。この手でしっかりと掴んでいかなくてはならないんだ。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp