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七十二候

第32章 草露白(くさのつゆしろし)


 一度経験しているというのは強い。どんなこともいつか終わりが来ることを知っているから。今はただただ耐えるだけなのだ。時間が解決してくれるのだから。
 私がスランプになるのはコンクール前ばかりだ。予選があるというのに、私は呑気だ。
 吞気ついでにご飯もしっかり作ろう。今日は身体を休めようと思い、冷蔵庫に向かおうとしたときに気が付いた。
「あれ……熱、あるかも」
 体温を測ると38.5度だった。しまった。私は慌てて病院へ向かった。
 
 熱というのは、自分で認識をしてしまうと、あれよあれよといううちに悪寒を自覚する。
 外は暑いのに寒い。この矛盾で服装をどうすればよいのか分からなかった。衣替えもしていないので、長袖のパーカーをクローゼットから引っ張り出した。それだけで体力を消耗する。
「ついてないな……」
 もしかしたら、スランプは体調が悪かったのかもしれない。私はあまり風邪をひかないタイプなので、悪寒を気温の寒さだと勘違いすることが過去にもあった。まぁ、こうして風邪をひくくらいだから、風邪をひいたのを見たことがない徹と岩ちゃんよりかは繊細にできているとは思うけど。

 病院から戻ってきたころ。アルゼンチン時間25時。徹から電話がかかってきた。
「萌? 大丈夫? 熱何度?」
「さっき病院から帰ってきて、ただの風邪だったよ。39度近くまで上がってるけど大丈夫。ただ、寒いな」
「そうか……近くで看病してあげたいけど、ごめんね」
 ものすごく心配してくれているのは、声だけでも分かる。
「ううん。気にしないで。お互い様。電話くれただけで嬉しい」
「うん……ご飯は?」
「さっき買ってきたから大丈夫。薬を飲む前に食べることにするよ」
「うん、そうして。他にして欲しいことある?」
「ううん、大丈夫。もう夜遅いでしょ? ありがとうね。また連絡するね」

 お粥を少し食べ、薬を飲んで横になるとだんだんと眠たくなってきた。私のそのまますぐに眠ってしまった。
 夢で徹に会った。看病してくれる徹。あれは付き合い初めて間もない頃のこと。
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