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七十二候

第31章 禾乃登(こくものすなわちみのる)


 鼻水とか顔とか、髪の毛の乱れを整えていくうちに、今起こったことを改めて思い出して赤面していた。徹もどうやらそれは同じようだった。そんなことを払拭するかのように徹は言った。
「おばさんに胸張って言ってよ。徹と付き合うって」
「やだ、しばらく言えないよ」
「俺は言うけどな。ずっと萌ちゃんとはどうなったって聞いてきてたし」
「え? 徹のお母さん、徹の気持ち知ってるの?」
「うん、あの人なんか鋭くて。だから萌んところもお母ちゃん経由でバレるな」
「うわぁ……」
 徹は自分のお母さんにまでバレるほど分かりやすかったのか……と自分の鈍感さを呪った。
「まぁ、進路とか問題はあるけど、一緒にいろんなこと乗り越えていこう。よろしくね」
「うん、徹が一緒なら心強いよ。よろしくね」
 そう言うと、再び私を抱きしめる徹。私も、恐る恐る腕を回した。こんなに逞しい身体をしてたんだとドキっとしてしまった。いつの間にか男らしくなっていたんだ。

 高校生最後の吹奏楽コンクール。納得のいかない演奏をしてしまった挫折も経験したが、この上ない幸せも経験した。
 これから、私はただの受験生となる。そして徹は春高の宮城県代表決定戦を控えていた。
 私は気持ちを新たにと、自宅の玄関前でめいいっぱい息を吸って胸を張って扉を力強く開けた。

「ちょっと失敗しちゃったけど、いい演奏できたよ!」
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