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七十二候

第31章 禾乃登(こくものすなわちみのる)


 自分の心に疎いのは自覚がある。徹が長い間私を想っていてくれていたことを嬉しく思うし、愛おしくなる。
「はぁ……今日はいろんなことがありすぎだよ……でも、嬉しい。徹、ありがとう」
 徹はずっと赤面している。きっと無意識に私を抱きしめていたが我に返ったりしたのだろう。だけど。

「萌、……こっち向いて」
「やだよ。顔、酷いもん」
「やだ。泣き顔も可愛いの知ってるから、見せて。ほらっ」
 無理やり顔を持ち上げられて。徹と目が合う。
「み、見ないで……すごい顔してる」
「うん、すごい困ってる顔してる。目真っ赤だし」
 じゃあ見ないでと徹を押しのけようとしたら、突然目の前に徹の顔が近づいた。何が起こっているのか把握する間もなく……。
 私は、キスされていた。

「!?」

 触れるだけの優しいキス。私の初めてのキスだった。
 相手が徹で嬉しい。そう思うとまた涙が出てきた。
「え? 嫌だった? ご、ごめん」と慌てる徹。
 私は必死で首を振る。そして「そんなことない」と言おうと思ったけど、それよりも緊急で言わなくてはならないことがあった。
「鼻水……」
「え! ちょっ、ティッシュ! ティッシュどこ!」

 かくして、ムードを台無しにした私たちだったけど、晴れて恋人同士となった。
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