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七十二候

第29章 綿柎開(わたのはなしべひらく)


 夕方16時。バスが学校に到着した。全員で器材を音楽室に戻し、音楽室で部長として最後の言葉を贈る。
「いい演奏だった。絶対にお客さんには私たちの演奏が届いた」と。
 泣きそうになるのを堪える。もうすでに泣いているみんなを見渡して、ひとりひとりを見つめながら語りかける。
「泣かないで。何も失敗していないんだから。確かに、私も……私こそだけど、個々人で反省する点はあったかもしれない。だけど、それはこれからに活かそう。青城ブラスの音楽は何一つ終わってないんだから。3年生は引退になるけど、この悔しい思いは1、2年生がより良い音楽へと繋げてくれると信じているよ。頑張れ。そして私たち3年についてきてくれてありがとう!」

 顧問の仲田先生が暖かく見守ってくれる。
「いい演奏だった。全国に連れていけなくてすまない。全部俺の責任だ。1、2年生。これからも悔しさをバネに頑張ろう。悔しさは人を成長させるから。そして3年生たち、頑張ってくれて本当にありがとう。今年の3年はとてもいい代だった」
 仲田先生も泣くのを堪えていた。その姿、その言葉を聞いてさらに泣きだす部員たち。わたしももう我慢の限界だった。でも、ここで泣いてはいけないと思った。そして自分の不甲斐なさを謝ってもいけないと思っていた。

「さぁ、胸を張って帰ろう。いい演奏してきたよ! ってお家の人に言おう」
 私は言いようのない悔しさと後悔を笑顔の下に隠して、明るく務めた。
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