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七十二候

第29章 綿柎開(わたのはなしべひらく)


 舞台裏でこれまでの練習のことを思い出していた。
 思うように音が合わないこと。四分音符ひとつですら揃え方で仲間と議論になったこと。規定上55人しか出場できないコンクールのメンバーオーディションで笑う子も泣く子もいたこと。普段優しい仲田先生の機嫌が悪くなってひやひやしたこと。学指揮とセクションリーダーと一緒に怒られたこと。だけど、褒めてくれるときは思いっきり褒められて嬉しかったこと。3仲間たちと部のことや演奏課題をたくさん話し合ったこと。そのあとファミレスで大きなパフェを食べたこと。たくさん泣いたし、笑ったこと。
 全部今となってはいい思い出だ。これまで積み重ねてきたことを遺憾なく発揮すべく、ソロに向けて精神を統一した。緊張していることは分かっていた。それをも受け入れなくてはならなかった。
 私たちはステージへ上がる。いよいよだ。今できる最高の演奏をしよう。


 本番後、みんなはスッキリとした表情をしていた。演奏で大きな事故はなかった。だからこそ、次の駒に進めることを期待していた。

 全員が祈るように結果発表を待つ。私も表彰式が怖かった。私は学校の代表として舞台へ上がり、結果を待つ。
 お願い、私たちの演奏、届いていますように……。みんなはいい演奏をしたんだから。
 手に汗をかいているのに全然温まらない手をこする。ああ、もうすぐ発表だ。

「宮城県代表 青葉城西高校――ゴールド金賞」
 一同、歓喜の声を出す。
 よかった……!第一関門はクリアした。
 金賞の高校のうち、全国大会に行けるのは3校。


……しかし、私たちの高校名は呼ばれなかった。
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