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七十二候

第29章 綿柎開(わたのはなしべひらく)


 少しだけ秋を感じられるように涼しくなる日も、相変わらず暑い日も織り交じる、そんな時期。
 少しだけ調子を取り戻した私は東北大会に向けて練習に励んだ。以前のように吹ける、という状態ではなかったが、しっかり吹けるイメージを持って臨むと結構上手くいくことが分かった。
 そして、東北大会前日。東北大会の会場は秋田県。私たちは朝から移動をし、秋田の中学校を借りて練習をする。
私は学校の門の前に到着した貸切バスに部員を乗せ、点呼を取っていた。
 そして出発の際に、徹と岩ちゃんが部活を抜けて駆けつけてくれた。
「いい演奏、して来いよ」
「うん、ありがとう」
「じゃー……気合!」と、二人に背中をばちんと叩かれる。
「痛っ!」
「行ってこい! 全国勝ち取ってこい!」
 私たち青城ブラスの音楽を信じて疑わないと言わんばかりの二人。嬉しくなり、私も笑顔を返す。
「行ってきます!」
 二人はバスが見えなくなるまで手を振ってくれた。
 その後、部員たちにそのやり取りをしっかりと見られていたため、バスの中でからかわれた。
「かっこいい男子と仲良くて羨ましい」とか、「取り合われてるのー?」とか。
「そんなんじゃないよ! 二人とも私の幼馴染だから!」
 私は手を振りながら全否定する。
「でも及川先輩は萌先輩を見る目がめっちゃ優しかったですよー?」と、鋭いことを言う子がいた。
「徹は私の保護者だからかなぁ……お母さんみたいなもんだよ」

 ほんと、ほんとに助けられてばかり。最近は距離の近い徹を意識せずにはいられなかった。私のことをたくさん気にかけてくれているし、助けてくれる。徹の行動理由が知りたかった。

 コンクール当日。コンディションは良い。みんなも大丈夫そうだ。前日練習のときから全体の雰囲気は良かった。
 全国大会に行けなければ、今日が引退となる。このメンバーと演奏するのが最後になる。だけど、そんな不安は誰からも感じ取れなかった。
 私はなるべくリラックスした穏やかな雰囲気で、リハ室にて部員たちを鼓舞する。
「青城サウンドを届けよう。今日もお客さんが喜んでくれるように」
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