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七十二候

第28章 蒙霧升降(ふかききりまとう)


 翌日、午前で部活が終わった徹に連れていかれたのは、仙台市の天文台だった。誰かに見られないかと心配したが、今どきの高校生が遊びにいくような場所でもないか、と自分を納得させた。というよりも、最近はもう女子の目はあまり気にならなくなっていた。
 だって、私は徹の幼馴染だから。他の人よりも距離が近くて当たり前だし、徹と一緒にいるのはやっぱり居心地がいいなと思っていた。徹は私のクラリネットの不調も聴いたら分かるくらいに私のことをよく分かってくれていたし、私もなんやかんや最近の徹の言動の正体が知りたくて、初夏のことからずっと気にはなっているくらいには、頭の中に占める徹の割合は高かった。

「小学生以来だ」
「俺も。プラネタリウムの時間までちょっと他を見て回ろう」
 夏休み中の子どもたちに混ざって展示室を見て回る。地球、太陽系、銀河系という分野別に宇宙を割と真剣に学ぶ。
「スケールすごいなー」と、徹は感心していた。
「ほんと、私たちの存在って塵以下だね……」
「塵って言い方……まぁ萌らしいけど、ほんとだね。どんな大きな悩みでも宇宙の前では、無だな」

 時間がやってきたのでプラネタリウムを鑑賞する。柔らかい座席。薄暗くて静かな環境。全身の力が抜けていくのが分かった。突然こみ上げる疲労感。あ、疲れてたんだな……と思った。
 横を見ると徹も眠たそうにしていた。疲れているのにこうして連れ出してくれることに心の中で感謝した。
 
「星、綺麗だった。癒された……」
 いきなり明るい場所へ出てきたため、目を細めた。
「うん、ほんと、小学生以来だったけど、楽しかったね。俺少し寝てたかもしれない」
「いやーあれは寝るよ。しかし南半球って、オリオン座が逆なんだね。なんだか不思議だね」
「うん、季節も逆。地球にそんな場所があるんだなって思った」
「……南十字星、いつか見てみたいな」
 私はつぶやいた。だって日本では沖縄より南西まで行かないと見られないから。
「おやおや、ロマンチックだね」と徹は笑った。

 そのあとはカラオケをして、その後は徹のお母さんが家に招いてくれた。今日は私の母が仕事で遅いから。ちなみに、徹の歌は普通かちょっとだけ上手い、である。
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