第27章 寒蝉鳴(ひぐらしなく)
大窪先生のレッスンを終えて数日後。8月中旬に差し掛かった。うるさいほど蝉が鳴き、鼓膜が振動する。その音は私の心を搔きむしった。
父と話したことで気持ちを新たに頑張りたかった。しかし、それはやってきた。
スランプだ。
私をよく知らない人は気が付かないかもしれないが、私には重大なことだった。思ったように吹けない。身体がいうことを聞かない。息が吸えなし、吐けない。目の前が真っ暗になる感覚。足が、手が締め付けられて冷や汗をかいた。
それでも、部長としてやらなくてはならないことはある。みんなへ指示を出さなくてはならない。吹けていないのに。
“吹けていないのに”。
それがさらに私を苦しめた。こんな私のいうことを誰が聞いてくれるんだろう。部員は何を思ってるんだろう。
部活中、ネガティブな感情で頭がいっぱいになる。私は合奏中に泣きそうになって必死に堪えていた。
「雨宮、具合が悪いなら帰りなさい」
顧問の仲田先生が演奏を止めて声をかけた。具合が悪いのではないとお見通しの上での発言だ。
「……すみません、ありがとうございます」
涙をこらえながら振り絞った声で言った。
帰りの支度が済み、音楽室を出ようとしたところ、仲田先生は玄関まで送ってくれた。
「休んで、違うことをしてみなさい。何か見えてくるよ」
もう、私にはうなずくことしかできなかった。涙をためて逃げるように帰った。
帰ってから、結局家でずっと練習をした。夜もずっと。でも相変わらず進歩しなかったし、むしろ退化していた。
母が休みなさいと言っても聞かなかったので、母は見かねて徹にヘルプを求め、20時すぎに徹が私の家に来た。
「バカ! 休めよ!」
徹が防音室に入って来て、開口一番に私は怒られた。