• テキストサイズ

七十二候

第25章 大雨時行(たいうときどきにふる)


 徹が鼻歌で歌う。しっかり長いソロなのに覚えていることに少し感動した。
「それそれ。意味わからないメロディなのに覚えてるのすごいね」
「俺だったら緊張して吹けないよ。ひとりで吹くんでしょ?怖すぎるって」
「徹なんて絶対平気でしょ。ソロはバレーボールでピンチサーバーを務めるようなもんだよ」
「なるほど……」と口を揃える二人。
「そういう局面では二人は何を考えてる?」
「成功イメージしか考えてないよ」
 再び口を揃える二人。強い。かっこよすぎる。普通、怖くなる局面なのに自分を信じることの強さ。それは自分を信じるに値する練習量があるからなのだろう。
「さすがです……。その精神力分けて欲しいよ。ソロでコンクールに出ていたりして場数を踏んでいても緊張するものはするよ」
「歌うときって、別に緊張しないでしょ?緊張するのは、何かを背負っているときだけだよね。あるいは不安があるとき」
 徹が鋭く言い当てた。図星だった。
「……そうだね」
 そうなのだ。練習不足で不安なことがあるとき、それは大抵本番では失敗する。よっぽどいいイメージを持っていないと悪いイメージに引っ張られてしまう。そして、必ず成功させなくては、という使命があるとき。これも失敗してはいけないという否定的な言葉が脳内を支配する。
 徹の分析力には頭が下がる。たくさんの経験をしてきたからこそ言える言葉なのだ。
「今までも乗り越えてきたんだし、大丈夫。東北大会も頑張れ」
「うん、いろいろ足掻いてみるよ」
「じゃー、お互い頑張るべ!」と円陣を組む。運動部らしい形で応援してくれるふたりに感謝した。
 よし、緊張するものは仕方ない。緊張していても身体が、指が動くように練習を繰り返して心をもコントロールさせよう。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp