• テキストサイズ

七十二候

第25章 大雨時行(たいうときどきにふる)


 8月の上旬に吹奏楽コンクールの宮城県大会があった。7月の4週目から夏休みに入り、10日程度は朝から夜まで一日中練習ができた。課題曲は卒業ソングのような儚さと美しさのある曲だったが、自由曲はグレード6という最難関でくるくると拍子の変わる、とても攻撃的な曲だった。発想記号に「卑劣に」とか「傲慢に」と指定されているくらいだ。
 コンクールは課題曲と自由曲を12分以内に演奏し、16校中上位4校が東北大会に駒を進めることできる。東北大会では24校中3校が全国大会に進むことができる。バレーボールなどスポーツの大会のようにその都道府県で1校だけが全国大会に進めるわけではないが、それなりに熾烈ではある。東北中の高校のなかでも3校しか全国大会に進めないのだから。
 楽器ごとのパート練習や木管、金管・打楽器に分かれたセクション練習など地道な練習を重ねてきたおかげで、県大会は難なく金賞を受賞し、東北大会へ駒を進めることができた。
 ただ、東北大会に向けてはまだまだ課題は多かった。そして個人的に問題だったのは、私のソロだ。
 ソロが全体の点数を左右するわけではないが、ちょっとした加点要素にはなると思っている。つまり、それなりには期待されているのだ。
 定期演奏会でも演奏したが、今回の県大会も無難に吹いてしまった。私は綺麗に、丁寧に演奏するように叩き込まれてきたが、こんなに狂暴で特殊奏法を要するクラリネットソロをどう表現すればいいのか、悩みの種だった。性格的にもこういう曲は向いていない気がしていた。この曲が採用されたのは、青城は金管楽器がパワフルで上手かったからだと思う。

「浮かない顔じゃん」
 徹の声がした。コンクールが終わり、仙台のホールから学校に戻り解散後、少し事務仕事をして居残りをしていた私を、部活を終えた徹と岩ちゃんが下駄箱で待っていてくれた。
「今日コンクールだったんだろ?お疲れ」
 岩ちゃんが俺たちから、とオレンジジュースを差し出してくれた。
「ありがとう! うん。東北大会へは行けることになったよ」
「おめでと。で、なんでそんな難しい顔してんの?」
「いろいろ課題は解消してないな、っていうのと自分のソロがイマイチ」
 もらったオレンジジュースを一気に流し込む。喉が渇いていたし糖分が欲しかった。二人ともナイス。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp