第22章 鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)
「萌覚えてる? 高3のとき、俺、萌に欲しいものない? って聞かれたんだよ」
「あー、言ったね。で、演奏してって言われたんだ」
「うん。でも断られたんだよね。喜ばせる曲が思いつかないから、萌がプロになったら一番に聴いてって」
「その代わり歌ったんだ! 懐かしいなぁ。わたし歌の方が得意だったんだろうな……」
「歌も、上手いってこと。でもこないだの萌の誕生日のときにプロになって初めてのソロを聞かせてもらったの、あれすごく嬉しかったな」
今更そんなことを掘り返され、恥ずかしくも嬉しくなる。
「高校のときの約束が果たせてよかった。でも今もプロを名乗ったとはいえ生涯勉強の身だから、次に聴いてもらうときは、もっと進化させたい」
「それはお互い様だな。毎日勉強だよな」
「そうだねー。あ。こないだ動画サイトでアップされたアルゼンチンとブラジルの試合見たけど、それこそプロって感じだった!」
「プロだったって語彙力……というか見てくれてたんだね」
語彙力を指摘される。でもたしかに、なんと表現すればいいのか。あのときの感動は、やはりその場で伝えないと鮮度が落ちる。今更過去の出来事に対する感想を、今も進化する徹に述べてもあまり響かないのではと思っていた。そして、徹はアルゼンチンでの自分の試合を見て欲しいと私に言ったことがない。見られたくないのかなと思っていたから、とくに触れてこなかった。
「すぐに伝えればよかったね。ごめんごめん。何年か前にも同じことを言ったけど、日本より格上の国でセッターを任されるってとんでもないことだなと改めて思ったよ。プロの試合の映像の中に徹がいるのって、すごいよなぁ」
「ありがとう。萌から感想を聞くのが怖くて、試合を見せてこなかったけど、萌の感想を聞けてよかった」
怖い? ……徹にもそんな感情があったのか。自分を信じて突き進む徹にもそんな気持ちがあったとは。なぜ今まで分かってあげられなかったんだろう。もし、私が徹のそばにいられたら、もっとバレーのことをたくさん話してもらって、たくさん理解してあげられるのだろうか。でも、そばにいなくても、分からなきゃダメだ。
「感想聞くのが怖いっていうのは……」
「うん。意外と思った? 俺、萌のように……」