• テキストサイズ

七十二候

第22章 鷹乃学習(たかすなわちわざをなす)


 まもなく梅雨明けとなる今日は徹の誕生日。青空が徹を祝福しているようだった。
 正確に言えばアルゼンチンは7月19日の22時。一緒にお酒を飲んだりしたいけど、時差は許してはくれない。今日はこの後仕事があるので、私はお茶で乾杯するつもりだ。しっかり身だしなみを整えて、久しぶりにビデオチャットを繋げた。
「萌、おはよう」
「徹、こんばんは。お疲れさま」
 気恥ずかしさを感じながらも久しぶりに徹の顔を見られるのは嬉しい。変わりなく元気そうでよかった。でも、アルゼンチンは冬の季節になったころで、自分の服装と逆なのがいつ見ても慣れなかった。
「プレゼント、届いてたよ。ありがとう!ちょうど壊れたんだ。ありがたすぎる!」
 私は某ブランドのスマートウォッチを送った。最近毎日使っていたものが壊れそうだと聞いていたからだ。ちゃんと誕生日までに届いてよかった。
「よかった。わたしも素敵な衣装をいただいたし。」
「いえいえ。吹奏楽ではそれ着てね」
「うん! 徹、誕生日おめでとう!」
 私たちは乾杯した。徹も明日があるから、とアルコールは飲まない。栄養の管理もしっかりしているので、滅多なことでアルコールは飲まないそうだ。
 私もそんなプロ意識を持ちたいけど、何かそれらしい行動はしたことがなかった。
「萌。今見えたんだけど……それはお蕎麦だな?日本食羨ましい!」
 アルゼンチンの料理は植民地時代や移民の影響で、地中海料理や先住民の影響を受けたものだという。きっと美味しいのだろうけど、やはり馴染みのある日本食が恋しくなるみたいだ。
「そうだよー。徹のそれはニョッキかな?というかバランスよい理想的なお食事……」
「うん。アスリートですから。こっちはパスタとか肉とかチーズが美味しいよ。でもパンはボソボソなんだよね」
「牛乳パンみたいなハマれるパンがあるといいね」
「あー! 食べたい」
「今度見かけたら代わりに食べておいてあげるね」
「ちょっと新手の嫌がらせ!?」
 たわいない会話が心地よい。この時だけは高校生に戻ったような感覚になる。
/ 234ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp