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七十二候

第21章 蓮始開(はすはじめてひらく)


 あのとき、徹は強いなと尊敬したと同時に、見せられたスマホの写真に幻滅した。猛くんに影山くんが徹に頭を下げている写真を撮らせていた。徹だけブレブレだったけど。
「……大人げない」と私は眉をひそめた。
「うん、猛にも徹だっせぇ、って言われた」
 徹はちびっこに呼び捨てにされている。
「あはははは」
「大人げないけど、大人げないけどさ!」
「やー、でもちゃんとアドバイスしてあげるのは偉いよ。影山くんが強くなっても受けて立つということじゃん。かっこいいよ」
 私は正直に思ったことを伝えた。励ましてあげようとも思った。
 徹はアイスを食べていた手を止めた。
「ありがとう……今のは幼馴染として慰めてくれたんだよね」
「へ?」
「あ、いやなんでもない」
 徹が慌てて話を遮った。
「さ。勉強しよう」


 私もどんな状況でも受けて立つくらいの心構えでいたい。心に余裕を持ちたかった。
 演奏の機会が増えていく一方、未だに自信が持てない私は、自分の道を信じて進む徹のようになりたかった。
 改めて、時に大人げないけど、それでも立派だと思える徹を尊敬する。
 そして来週は徹の誕生日。顔を見てお祝いがしたい。連絡してみようかな、とスマホを手に取った。
「お疲れ様!もうすぐ誕生日だね!オンラインで会おうよ」

 今日も相変わらずの雨模様。しとしとと降る雨音をBGMにし、リサイタルの構成を考えてみる。雨が先に止むか私のリサイタルのプログラムが先に完成するか、競争してみよう。
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