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七十二候

第20章 温風至(あつかぜいたる)


 そんな日々であるため今日も譜面を読み込む時間を設ける。テレビの音を消し集中する時間だ。どうやら私は高校の頃も譜面を見ると集中するタイプだったらしく、周りが見えなくなるほどだったようだ。
 

 レッスンの課題を読みながら、その曲を聴きながら耳にイヤホンを付けて朝練に向けて登校していたところ、いきなりつむじを押された。
「!?」
「おはよ~。下痢のツボ~」
 徹だ。さわやかな容姿と言動のミスマッチ。
「ちょっと! ひどい!」私は両手で頭を押さえた。
 あんまりスキンシップとか取らないで。だれか見ていたらどうしよう。妬みの対象になりたくない。と焦っていた。というか下痢は困る。この遊びは昔から小中学生の間で流行っていた気がするけど、まだそれをする人がいたとは。
「歩きながらよそ見するのは危ないからやめなさい」
 徹から譜面を取り上げられた。たしかに、私は小さい頃から転んでよくケガをした。その頃から心配させていたからか、今でも徹はお母さんのように心配をしてくる。
「はーい」
 徹が私の譜面を見て、「なんだこれ」と言う。たしかに、黒い音符だらけで私も困っていたところだった。
「ねぇ。今の他の女の子にもするの? さすがに女の子に下痢はまずいって」
「他の子にはしないよ? 萌だからやったんだけど」
 あっけらかんとした徹。幼馴染だからこその遊びだったのだろうか。
 水色の部活Tシャツを着ていて、ああ、爽やかで徹に似合うなと、ふと思ったけど、そんな考えをごまかそうとした。
「私だからか……下痢にさせたいってことか……」
「下痢は迷信だと思うよ」
 徹はケラケラ笑った。そんな姿を見て、徹はこういうときは本当に子どもだなと思った。
 朝露で草の香りが漂う。めいいっぱい吸いこんで、私は仕返しと称して背中を叩く。
「迷信じゃないかもしれないから仕返ししとく。あと3日間下痢になる呪いをかけた」
 結果、私は下痢にはならなかったが、徹はその後、私が岩ちゃんに言いつけたことで、岩ちゃんからも下痢のツボを押されて悶絶していた。
 久しぶりに元気な徹が見られて安心したし、少し嬉しかった出来事だった。そして、私を下痢にさせようとしたくらいだから、徹の私に対する気持ちはやはり幼馴染なのかと結論づけた。
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