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七十二候

第16章 梅子黄(うめのみきばむ)


 帰り道。水玉の傘をさしながら歩く。雨音を傘で鳴らす。
 コンクールだってコンサートでお客さんを喜ばせることと目的は変わらないんだ。なのにコンクールは人と競う分辛いものがある。その曲を極限まで自身の最高の作品へと昇華させる作業。終わりのない戦い。徹もこんな戦いをずっとしてきたのだろう。だけど思う。徹も私も、バレーが、音楽が好きなんだ。だから上を目指さずにはいられないんだ。

 高校最後の定期演奏会。徹のアドバイス通りに部員たちだけで話し合いを実行し、「青城ブラスのファンを増やそう」という目標を設定した。そこからパートリーダーの役割をさらに明確にし、体制の強化を行った。毎週ミーティングを行い、パートごとの状況共有も行い、必要に応じて顧問の先生にもアドバイスを仰ぐなど、これまでよりも部の結束も技術も高めようという意識が芽生えていた。私はリーダーは得意ではない。だから3年生の仲間たちにはとても助けられていた。
 こんな私がなぜ部長なのか。それは周りの推薦だった。一番音楽に向き合っているから、とかそんな理由だった気がする。断れば良かったのかもしれないけど、みんなの期待に背くこともできなかった。

 徹にアドバイスをもらった部活づくりは、今でも中高生の指導に役に立っている。あの頃の徹も、今の徹も、ただただ尊敬するばかりだ。
 主将。そして攻撃の司令塔であるセッター。その役割からして、徹は兵士たちを率いる武将のような男だ。
 そしてありがたいことに高3最後の定期演奏会では吹奏楽をバックにわたしのソロを演奏する機会を与えてくれた。顧問の先生の計らいだ。宮城でクラリネットを吹いている高校生の中では少しだけだが私の名前を知ってもらえていたため、それが集客になること、そして私の将来のためにもソロを多く経験させることを考えてくれたのであろう。
 その時も思ったんだ。慢心するな。これは与えられたチャンス。将来につながるチャンスなんだと。少しでも私の名前を覚えて、私の奏でる音楽を好きと言ってもらえるように。

 あのときの私から、やりたいことは変わらない。その手段のひとつとしてコンクールがあるだけ。気負うことなく、頑張ろう。
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