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七十二候

第15章 腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)


「わぁい、大好物……」
 徹は振られたとは言え、そこまで悲しそうにも見えない。何だかよく分からない奴だな、と思った。やっぱり恋することよりもバレーの方が好きなのかな。

 そんなことを自宅で身支度をしながら思い出していた今日はやはり雨。梅雨は憂鬱だ。髪の毛は広がるし、クラリネットの調子は良くない。温度と湿度に弱い木管楽器の宿命だ。
「徹のよき理解者でありたい、か」
 それだけなら友達にだってできる。違うんだ。私は徹から与えられてばかりで肝心なときに徹になにもしてあげられていないんだ。
 こんなに長い間遠距離恋愛をして、今後の見通しも立てずに、自分はいったい何がしたいんだろう。
 だけど、今の私に答えを出す勇気も力もない。
「少しずつ、少しずつ……」

 最近、SNSを始めた。動画サイトのチャンネル登録者も少しずつ増えてきた。反響があるのは嬉しい。
もっと音楽活動を広げていこう。
 私はお気に入りの傘をさして練習に向かった。柄が木でできている、水色の水玉模様。少しでも曇天の中でも明るく輝けるように。
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