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七十二候

第15章 腐草為蛍(くされたるくさほたるとなる)


 それから間もなく、とある日のこと。私の母の帰りが遅くなるということで、徹の家でお世話になっていた。岩ちゃんも誘って、私たちは徹の部屋で宿題を済ませていた。

「俺彼女に振られた」
 徹が英語の教科書を閉じて机に突っ伏した。
 ぎゃははは!と笑う岩ちゃん。私はぽかんとしていた。
「俺の何がいけなかったんだ……」
「そりゃーバレーばっかりやってたからだろ。もしくはそのツラで振られるなら性格に問題があるんだな」
「そうだろうね。間違いない」
「萌まで追い打ち……」
 徹が頬杖をついて不貞腐れた様子で私を見る。私は友人から見聞きした数少ない知識をひけらかした。
「女の子は大切にされたいんだよ。頻繁に連絡取りたいし、毎日のように会いたいし……いや知らないけど」
「知らんのかい」
 息の合った突っ込みを入れる二人。
「だって付き合ったことないもん」
 そう。この間、そのチャンスを自ら逃したばかりだ。
「萌は誰かと付き合ったらそうして欲しいの?」
 岩ちゃんがニヤニヤしながら聞いてきた。私はうーん、と自分だったらどうなのか考えてみる。
「……たぶん、基本的にはそうだと思う。それに、その人のことを知りたいし、その人のよき理解者でありたい、かな」
「ふーん。それってお互いのことをよく知るという点では俺たち幼馴染と変わんねぇべ。な、及川」
「なっ! そ、そうだよな。うん、変わんない……かな……」
 だんだんと言葉尻がデクレッシェンドする徹。
「そうなの? じゃー可愛いとか好きとか、たくさん言ってもらって自己肯定感爆上げされることも追加で!」
「ははっ。それはさすがに言ったことねぇな。な。クソ及川!」
 徹が岩ちゃんを睨む。
「俺は失恋したんだ。萌。しばらく優しくして」
「あはは……牛乳パンあげるよ」
「わぁい、大好物……」
 徹は振られたとは言え、そこまで悲しそうにも見えない。何だかよく分からない奴だな、と思った。やっぱり恋することよりもバレーの方が好きなのかな。
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